スポンサーリンク

【連作コラム (1~4)】見上げればドコモ尻

スポンサーリンク
ドコモダケ コラム

開いた目が見たのは、ドコモダケのお尻だった。見たというより、視線の先に在ったような。蛍光灯のヒモにぶら下がったNTTドコモのかつてのマスコットキャラクター。うたた寝から目を覚ましたときに見つめた物が、森羅万象の中でノベルティグッズのドコモダケのお尻だったことが「お前は卑小な人間だよ」というメッセージだとしたら、私は哀しい。

ぶら下がったドコモダケのお尻はケータイの液晶クリーナーになっている。15年以上前から蛍光灯のヒモの先という定位置を守っているドコモダケのお尻は、液晶を拭きすぎて薄汚れてしまい焦げ茶色なのか何なのかよくわからない色をしている。(そのよくわからない色こそ、FOMAとかのガラケーがドコモダケのお尻にお世話になった証でもある)

リビングに移動してアーモンドミルクを飲もうかと思ったけれど、まだ微睡みに半分沈んでいるような私は部屋の中央、カーペットの上で仰向けのまま薄汚れたお尻を見つめていた。アーモンドミルクは、妻がたくさん買ったけれど飲めなくなったやつだ。「濃い」らしい。

DVDやCDのレンタルショップでアルバイトをしていた二十歳のとき、深夜2時の閉店・バイト終了ギリギリでお漏らしをしてしまった。水みたいな便だった。お漏らしをした? お漏らしとは果たしてするものなのかされるものなのか。どちらでもなく、「意思とは異なる状況に追いやられること」か? ”反”という漢字が思い浮かんで、昨夜見た『ターミネーター』のシュワちゃん(T-800)の最期を頭の中で再再生していた。圧。

私はまだ、ドコモダケのお尻を見つめたままでいる。

お尻に管が入った感触は覚えていないが、そこからバリウムが注入されたときのヤバさは覚えている。お腹が弱くて、高校2年のときに大腸のバリウム検査を受けた。検査結果は特に異常なしで良かったけれど……検査着の肛門に穴のあいたパンツ、台に寝そべる私を見つめる担当医と看護師たちの複数の目、あまりにも不味い液体の下剤が青春の1ページというのは、ティーンエイジャーの輝いた思い出にならない。

あの透明な下剤は本当に不味かった。量もえげつなかったし。一番キツかったのはとろみだ。下剤に濃厚さを求める人はいないだろうに。

アーモンドミルクを飲もうと思った。
濃いアーモンドミルク。

私はドコモダケのお尻から視線を外した。リビングに移動して、アーモンドミルクを飲む。125㎖の小ぶりな紙パック。ふと、アーモンドミルクの色が知りたくなって紙パックを優しく握りストローから上昇する液体を見てみる。

私は勝手に、ドコモダケのお尻の色を下地にしてそれが重なるか見ていたけれど、アーモンドミルクは割と白色が強く、ほんの少しだけ茶系が混ざったような色をしていた。薄汚れた液晶クリーナーと健康的な飲み物は、はっきり異なる色をしていた。

その色が確認できた瞬間――紙パックを握る加減を誤ったのか、ストローの先からほんの少しアーモンドミルクが飛びだしてこぼれた。

お尻ばかり見つめられたドコモダケが視線を感じたせいでアーモンドミルクがこぼれた――とは微塵も思わなかった。

タイトルとURLをコピーしました